「それ、私でもできるかな」——その一言から、全部始まった

2026/09/28

NHKのプロジェクトXで、徳島県上勝町の葉っぱビジネス「いろどり」が取り上げられていました。

 

正直に言うと、この事例、私は何度も聞いています。

本も出ているし、セミナーでも地域おこしの成功例として語られる定番。

目の付けどころが天才的だよね、地域資源の発掘ってこういうことだよね。

そんな「ビジネス目線」で、私はずっとこの話を見ていました。

 

でも今回の番組は、まったく違う切り口でした。

立ち上げから関わった女性たちご本人が、画面に登場されて、イキイキと活動されている様子が印象的でした。

 

「そんなゴミが商品になるわけないやろ」

40年ほど前、上勝町を冷害が襲って、町の暮らしを支えていたみかんの木が全部死んでしまった。

そこから新しい産業を立ち上げようと奔走したのが、農協職員の横石知二さん。

 

大阪の料亭で、お料理に添えられたもみじを女性客が「かわいい」と持ち帰る姿を見て、ひらめいた。

この葉っぱなら、上勝町に無限にある。

 

けれど、山に生えている葉っぱが商品になるなんて、誰も信じてくれません。

農家のお父さんたちは「そんなゴミが売れるわけないやろ」と笑った。

 

その笑い声の横で、手を挙げたのが農家のお母さんたちでした。

 

「それ、私でもできるかな」

 

女性の口コミで「じゃあ、みんなでやろうよ」と広がっていったそうです。

 

銀行口座を持たなかった女たち

ここ、私は実家が農家なので、痛いほどわかるんです。

 

お父さんとお母さんが一緒に汗をかいて働く。

でも、お米もみかんも、売上はすべてお父さんの口座に入る。

お母さんはそこから食費や生活費を「もらう」立場。

自分の口座さえ持っていない。

自分の自由になるお金が、一円もない。

 

だから彼女たちが葉っぱに手を伸ばした理由は、地域活性化でも六次産業化でもありませんでした。

 

自分で稼いだお金が、自分のところに入ってくる。

 

それだけです。それが、すべてだったんです。

 

1ケース10円が、1年続いた

ただ、現実は甘くない。最初は1ケース出して10円ほど。

その状態が、1年続いたそうです。

 

私だったら、たぶん諦めます。

「やっぱり無理なんや」と、自分に上手な言い訳をして畳んでいたと思う。

 

でも横石さんは諦めなかった。

週2回、料亭に通って、どんなサイズが求められているのか、どう使われているのかをノートにびっしり書き取って帰る。

地元で女性たちとミーティングを重ね、日本料理のプロを町に招いて教わる。

もみじは少しでも傷やシミがあれば使えない。

プロはこうやって選ぶんだよ、と。

 

売れない原因を「うちの商品の価値がわからない客が悪い」にせず、「顧客の現場」に通い続けた。

ここが痺れるところです。

マーケティングという言葉を使わずに、マーケティングそのものをやっている。

 

やがて10円が100円、200円になり、月200万円を売り上げる人まで現れます。

そうなると女性たちが勝手に工夫を始める。

ビニールハウスを建てて品質を上げよう、季節を先取りしよう、と。

 

売れると、楽しい。楽しいと、工夫する。工夫すると、また売れる。

この循環に入った事業は、もう誰にも止められません。

 

京都の料亭で、自分の葉っぱに会う

横石さんは年に一回、みんなを京都の高級料亭に連れて行ったそうです。

自分が育てた葉っぱが、どう使われているのかを見てもらうために。

 

自分で仕事をして、その稼ぎで京都の料亭に座って、目の前の器に自分の商品が載っている。

 

「私が育てたもみじが、こんなふうに使われてるんや」

 

あの瞬間の胸のいっぱいさは、想像するだけで泣きそうになります。

これって、売上や利益といった数字では絶対に測れない報酬ですよね。

お客様の現場に自分の仕事が立っているのを、自分の目で見る。

私たちが事業を続ける理由の、かなり芯に近い部分だと思うんです。

 

70代、80代で「生涯現役でいたい」

印象に残ったのは、初期から関わってこられた方たちが、70代・80代になっても「生涯現役でいたい」とおっしゃっていたこと。

 

明日はどんな葉っぱをつくって、どう出荷しようか。

それを考えるのが楽しい。明日への希望がある、と。

 

これ、年金の話でも健康寿命の話でもありません。

仕事が人に希望を配給しているという話です。

 

私は普段、3〜5人規模の女性経営者さんの「伸びしろ」を探す仕事をしています。

売上をどう伸ばすか、補助金をどう使うか、発信をどう整えるか。技術的な話はいくらでもできる。

 

でも根っこにあるものは、40年前の上勝町のお母さんたちとまったく同じなんだと、あらためて思いました。

自分の力で稼ぎたい。自分の名前で仕事をしたい。そして、明日が楽しみでいたい。

 

もし今、あなたの事業が「1ケース10円」の時期にいるのなら。

それは才能の問題ではなく、まだお客様の現場に通い足りていないだけかもしれません。

10円が100円になる場所は、たぶん自分の山の中ではなく、お客様のテーブルの上にあります。

 

現場にきっとヒントは詰まっていますよ!